歯科治療の治療期間について②

途中から「全部治療して」と言って1年以上かかった話

前回、治療期間についてのメドについてのお話しをさせていただきました。今回は患者様個人個人の治療期間はどのようにして決まっていくかのお話しをさせていただきたいと思います。

患者さまにとっては定期検診にこぎつける事がゴールの目安になるという事は理解していただけたとは思うのですが、問題はその状況をゴールとする設定の問題です。当然ながら、一つのゴールを目指して歯科医院側も患者さまも共同作業で治療を続けるのですが、実は歯科医院的な立場からはゴールを作るという作業がとても重要な事になってきます。

これは、重要な事なので実は患者さまが受診される際の一つのポイントになります。

まずは、どこまでの範囲を治療をするのか?を決めていかなければなりません。患者さまが「そんなとこまで治療しなくてもいい。」と思っている範囲と、歯科医院側が「ここまでは治療が必要です。」という範囲の中で折り合いをつけなくてはなりません。

それから、全体的な治療に入る前に保険の治療だけでのゴールの設定をするかしないかは決めておきましょう。

例えば、治療がある程度進んだ後で患者さまが「保険以外でお願いします。」と言った場合、インプラントなどなら、削らなくてもいい歯を削っていたり、一度完了した歯の治療をまた最初から再開する必要なども出てくるでしょうから、仮に保険での治療をしていても、「保険以外の治療も必要があれば、説明は聞きます。」というようにしておくと良いのではないでしょうか?

今回は治療のゴール設定が曖昧だった事で治療期間が長くなってしまった話をしてみます。

患者さまは50歳代の男性、仕事も忙しい事が続いてたので最後に歯科の治療を受けたのは多分10年以上前だという事以外覚えておりません。長年の放置が祟ったのか、突然急な奥歯の腫れと痛みで昨晩は眠れませんでした。物も噛むたび余計ズキズキして仕方がないので職場の近くの歯科医院の予約を取り、明日行く事にしました。

とにかく久しぶりの歯医者なので、待合室でも痛みが気になってしょうがありません。怖い事もあり、たくさん虫歯があるとは思っていましたが、そこだけの痛みを取ってもらいたいと思っていました。

A先生「こんにちは。昨晩はひどい痛みで大変だったようですね。」

患者様B「もう痛みが大変なんで、どうにかしてください。あと、ほかの治療はいいから、ここだけとりあえずおわらせて下さい。」「あと、絶対に高い治療はすすめないで欲しいです?ここだけ痛み取ってくれればいいので。」

A先生「他の部分や、歯周病の診断はよいのですか?全体的な診断も必要そうですが…」

患者様B「いや、他とかじゃなくって、とにかく痛いんだからこの歯をどうにかして下さい。とりあえずはここだけお願いします。」

A先生の診断によれば、問題の奥歯は神経が無い歯なのに、歯の先に炎症が起こっていて、膿を持っているという事らしい。治療のおかげで痛みは取れたが、根っこの消毒とかで、10日に1回ほどの消毒を2カ月ほど繰り返していった。そうして、なんとか銀歯を入れてもらうようになるまで3カ月かかった。

明日で終わりという時に妻にその事を話したら「この際だから、歯周病の治療もしてもらえば。」と言われて、最後ついでに先生に聞いてみようと思った。銀歯を付けてもらった後で先生に相談してみた。

A先生「とりあえず銀歯を付けるところまで、治療が完了しました。お疲れ様でした。」

患者様B「A先生、あと、妻に言われたんだけど歯周病の治療してもらえる?」

A先生「今すぐは無理です。」

患者様B「え、来週以降とかになるんですか?」

A先生「2~3か月以上経ってからなら、最初から治療できると思います。」

患者様B「なんでそんなに空けないとだめなの?」

A先生「今回かぶせた歯を型取りした時点で、次も連続して歯周病の治療をする事はダメ。という保険のルールになっています。」

患者様「??」

A先生「保険のルールでは治療をスタートする時点で、その人が歯周病かそうでないか病名を決めます。B様の場合は『この奥歯だけやって。』という事でしたので最初から歯周病の病名は入れてません。それでも歯を型どりするまでは歯周病の治療は出来るのですが、保険のルールでは歯周病の治療が治ってから歯型を取らなければならない。という決まりがありますので、歯を入れてしまった今となって、やっぱり歯周病が有りました。というのはルール違反になります。」

患者様B「じゃ、ルール違反でもいいから歯周病の治療やってよ。」

A先生「保険を使わなければ、歯のお掃除は保険外のトータルクリーニングで一応できます。」

患者様B「いくらしますか?」

A先生「一回で20000円と消費税がかかります。」

患者様B「やっぱりいいです。ていうか高い治療すすめないでって言いませんでした?」

A先生「B様が聞いたのでお答えしたまでです。」

患者様B「じゃあ、なんで2~3か月後ならいいの?」

A先生「一応、今回は虫歯の治療だけでしたが、治療完了になれば、次に時間がかかってこられた場合にまた新たな病気にかかっている可能性もありますよね。ですので、すべて一旦リセットできます。」

患者様B「それはまた、保険で出来るという事ですよね?」

A先生「あまり、リセットするのもうちの医院にとって良くないのですが、患者様の都合なら今回はしょうがないと思います。」

A先生の説明によると、最初の受診の時点で歯の治療には一定の連続した流れがあり、歯周病なら、最初にどの歯が歯周病という事を決めなければならないそうだ。そうして他の治療と並行して治療を進めるのだが、大きく歯を被せたり、ブリッジという大きなかぶせ物とかを治療で装着する場合は、歯周病が治ってからしか出来ないのだそうだ。結局また3カ月待って最初から診てもらう事にした。今度はせっかくなんで全部見てもらう事にした。

患者様B「先生、今回は待ったんだから悪いところ全部治してね。」

A先生「わかりました。まずレントゲンなどで診断しましょう。」

撮影後…

患者様B「どこか悪い所あります?」

A先生「うーん、前回治療した奥歯の反対の奥歯にも前回と同じような炎症が有りますね。」

患者様B「でも痛くないですよ。」

A先生「今は痛くなくても、急に痛くなったりします。普段はお身体の抵抗力などで痛くならないように体の中の細胞が戦ってくれていますので。ただ、体調が崩れたり歯を使いすぎたりすると痛くなり始める可能性があります。」

患者様B「あの痛みだけは勘弁して欲しい。治療しましょう」

A先生「あと歯周病もかなり進んでいますね。検査しましょう。」

検査後…

A先生「歯周病に関しては、深い歯周ポケットが存在する部分があります。」

患者様B「放置するとどうなります。」

A先生「ここまで進むと、いずれは抜歯ですよね。」

患者様B「どうにかならないんですか?保険でですよ!」

A先生「保険でも歯周病の治療は高度な炎症を取る手術などもカバーできます。」

患者様B「治療はどれくらい続くのですか?」

A先生「治療の流れについて図説がありますので、見てください。」

図説によると、最初の検査があって、病気のひどさにより段階的にステップアップする感じだったが、ん、これが、ゴールかな?メンテナンス

患者様B「私の場合はどれですか?」

A先生「今回の検査結果からすると、この一番重症のコースです。」

患者様B「なんか歯周外科手術ってありますけど、手術が必要なんですか?」

A先生「外来の局所的な手術ですが、そうなります。まあ、抜歯なども手術ですから。普通には取り切れない、歯茎の中の悪い部分を外科的に取り除いていく治療法です。」

患者様B「それは、絶対しないとダメなんですか?後、治るのにどれくらいかかるんですか?」

A先生「手術は改善が見られないような場合は必要です。その前の検査でとても改善していれば手術にはならないこともあります。歯周病だけ治すとしたら、週1回程度の治療で、目安としては中等度レベルの歯周病が2~3か月、手術を伴うような重症の場合は約半年といったところです。」

患者様B「半年待って、また半年ですか?そして、メンテナンスがゴールですか?」

A先生「そうなります。ですが、メンテナンスは病状に合わせた定期的な維持管理の治療ですので、終了後も受診が必要です。」

患者様B「最初からしとけば半年前には終わってましたね。」

A先生「そうですね。また頑張りましょう。」

このように仕組みがよくわからずに治療の事で迷われている方も多いと思います。多くの治療は歯周病の治療と並行して出来ますが、最初の時点で病状を把握しておけば歯周病だけでもどの位の治療期間がかかるかがわかります。治療する部分が多い場合も時間がかかりますが、なるべく初診時に全体のレントゲンを撮ってもらったりして、大まかに主治医の先生に治療の必要性の高い部分の説明をしてもらった方が治療期間の診断もされやすいので、よいと思います。

結論としては、治療期間の予想を立ててもらう為にも初診時はなるべく全体的な診断、歯周病の検査を受けていただくことをお勧めいたします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました