インプラントを迷っている方へ               

インプラントの価値

インプラントについては諸説、評価が多岐にわたるので、私個人の見解が必ずしも正しくない可能性も含めて敢えて言わせていただきますと、インプラント治療は他の治療に代えがたい大切な価値が有る事は間違いありません。

ただ、その価値の恩恵を最大限受ける方がいる一方で、高額な金額に見合った価値を生む事が出来ない方もおります。恐らくはご自身が想定していた金額に見合った価値が得られていない患者さまや、不幸にもインプラント手術を受けたにも関わらず、それが結果的に十分機能を発揮できずに無用の長物になってしまわれた方。

無理な治療計画の結果インプラントが痛みの原因になってしまったり、インプラントその物を取り除かざるを得ない結果に見舞われてしまった方などに置かれましてはインプラントがその金額に見合った治療でなかったという評価を受けてしまうことになります。

ですので、インプラント治療を迷っている方に正直に私が思っているインプラントの問題点と最大の利点をお伝えできれば良いと思います。

最初から迷っていない方や、そもそもそんな高額な自費治療を受けたくない方には参考にはならないかもしれませんので、ご覧にはならない方が良いかもしれません。

また、特に専門家にとっては様々なご意見が有ると思いますので、わたくしの意見も一つの側面的な意見という前提でご理解いただけると幸いです。

「インプラント以外の治療法で。」

 歯を喪失された患者様や、欠損した歯の機能回復のカウンセリングをする際に、時々話の前提で「インプラント以外の治療法で。」とか、「インプラントはいいです。」とか、中には「インプラントだけはしたくないです。」とかをカウンセリングの前提でお話しされる患者様は多いです。

しかしながら、特にそのような方に限って、話を進めていくにつれて、インプラントにしかできない治療法を同時に望まれている場合が多いのです。

私ども術者の立場としては一番望んでいる治療法を自ら拒否して話を進めようとするので、絶対に患者様が喜んで治療を満足されることはないな。と感じてしまいます。

患者様にとっては、治療をお受けになって、何を目的に治療をされるのでしょうか。私が目指すものは「長持ちしつつ、高い機能を維持できる状態。歯を失ったり咬めなくなる心配や不安が、ある程度解消できて、食べることに長期間、心配無くいれる状態」だと考えますし、またそれは誰しもが望む状態だと思っています。

歯というものはその機能を喪失して初めてその大切さが分かるものです。ですので、歯を失う前には誰しもが食べることに対しての不安がありません。

歯を失う経験をして、食べることに対しての不安が生れたとき、その方は初めて「歯を失う」という事に対して不安を持ち続けることになるのです。

不安や、心配というものは尽きませんが、もしも人生の中で不安を抱えて生きていくのと、不安が解消された状態で生きていくのでは全然楽しさが異なる生き方になるのではないでしょうか?

ほとんどの病気は生活習慣と病気に対してのストレスや環境の不安から悪化していくというような話が有ります。

病気の治療をしたのに、病気になる心配をしながら生きていくのはつらいと思いませんか?

歯の事で言うと、歯の治療を受けたのにまた歯が無くなるかもしれない。とか、食べたいものの幅がだんだん狭くなる。といった心配は解消できるなら解消した方がより彩りよく生きていけるのではないのかな?という事になると思われます。

ケースにはよりますが、インプラントによる治療でその心配を解決できるケースが多いという事は言えると思います。

インプラントは高いのか?

 インプラントに関しての最大のネックになっている原因はズバリ金額だと思います。そして次の不安要素は外科的な治療法に対しての不安だと思います。

多くの患者様と話をしていると大抵のインプラントを拒絶する原因の本質は金銭的な理由である場合が多いと思われます。

そこで、インプラントが高い治療法なのかどうかを考えてみたいと思います。

ネットなどではインプラント一本の相場は約30万~50万程と言われております。また、格安インプラントなどにカウンセリングに行ったら結局、高額になったとか、安価なインプラント治療自体が不明なインプラントメーカによる物である可能性も否定できません。

インプラント自体はとても安全性が高く長持ちするものもかなりあるのですが、一流メーカーのものはそれなりに研究開発を繰り返し、長期維持可能なデーターに基づいた商品ですので当然ながら金額は高くなります。それらのものを扱っている場合はコスト削減しても恐らく1本の総額が20万以下などでは到底不可能だと思われます。ただ、これは憶測にすぎませんので、きちんと安いインプラントのカウンセリングで納得できればそれで良い話だと思われます。

では、一本当たり約35万としてみても、それは高い買い物でしょうか?

現在インプラントの維持可能な年数は10年生存率で90~95%と言われており、メンテナンスや適切な処置により更に長持ちすると言われております。

自動車が10~15年と言われますが、自動車は毎日乗るわけではありません。口腔内は毎日何かしら食事をするので、ある意味自動車よりも過酷な環境にあるのかもしれません。その中で10年以上もの間、しっかりと仕事をしてくれるのですから、10年という単位で考えると、ずいぶんと長い期間機能することを見据えたうえでの治療になります。

もしも、35万で数本インプラントをすれば確かに高額になります。多くて10本だとすれば350万~400万程ですが、自動車と考えればそれほどにも高額とは考えにくいと思います。

10年の使用と考えたとき、デンタルローンなどを使用すれば400万で7年なら金利を入れて毎月6万4千円程になります。

ただ、それほどになると状況によりけりですが一括払いの負担としては高額だと思います。また、ローンをするにしても決して軽い負担ではございません。

一括での支払いは困難でしょうが、もしも、1,2本で済むならローンで組んでもそれほどの負担は無いと思われます。結果として高額になると選択の幅は限られるのでしょうが、そうならないためにどうすればよいか、何故そうなってしまったかは過去の治療法の選択の結果でしかないという事を是非知って頂けれるとよりご理解いただけるのではないかと思います。

いきなり高額なインプラント計画にならない為に

多くの患者様が金銭的に不安を抱くのは、このいきなり高額な見積もりが提示される可能性が高いことも不安要素の一つではないでしょうか?

「いよいよ入れ歯しかない。」と診断されてしまった患者様の多くは、この局面に遭遇されると思われます。なぜ、入れ歯になるのでしょうか?よく考えてください。

まず、最初に奥歯を抜かれました。すすめられるがままに、ブリッジを入れました。保険でもブリッジは可能なので歯はたくさん削られてもブリッジでそこそこ咬めるので安心していました。

ですが、ブリッジの平均的な耐用年数は7年~10年ほどです。7年以上持つ場合ももちろんありますが、あくまでもデータ的な耐用年数は7年~10年という事です。個人差はあっても、耐用の限度を超えて使用すれば支える歯の限界を超えますので、支えている歯の抜歯の可能性なども当然あるのですが、その危険性についてはあまり知らされることはありません。痛くなってからの受診では手遅れになっている場合がほとんどです。

いよいよブリッジがダメになります。ブリッジの支えの歯が痛くなってきて抜かないといけなくなりました。支えの歯は2本ですが、悪い方の奥歯を抜かないといけないので、入れ歯しか無理と言われました。入れ歯を入れてみたけど気持ち悪いし、そこそこ咬めることもあり使っていませんでした。

入れ歯を使わなかったら、抜かれた歯の隣にあった手前の歯がグラグラしてきました。歯科に行ったらこれも抜かなくてはならないと言われました。抜かれるのは正直納得いきませんでしたが、抜いても反対の奥歯で咬めるので放置していました。反対の奥歯で咬んでたら、そのうちそっちが痛くなってきました。

痛くなってきた歯を見てもらったら歯周病が進んでいると言われてこっちも抜く羽目になりそうです。

いよいよ入れ歯しかないと言われましたが、そのほかの方法を教えてもらったらインプラントで4本150万程と言われ、ちょっといきなり高額過ぎと思い悩んでいます。

とここでインプラントが高額であることを確認してインプラントは高いものだ。と思われる方が大半なのです。何故高くなるかというと、一本ならまだしも、いきなり数本をまとめて保険外の治療でやろうとするので高額な治療費とその本数をかけ合わせれば高くなるのは当然なのです。

そして、大半の方はこのように、歯を失っていくストーリー上にあるがゆえに総入れ歯に至ってしまう方さえもおられるのです。よく考えてほしいのですが、総入れ歯の患者さまだって、過去には恐らく歯が有ったと思います。そして、歯を残せない状況がどんどん増えて、部分入れ歯の範囲が徐々に大きくなっていき、総入れ歯でないと咬めなくなってしまうのです。何もいきなり一日で全ての歯が無くなって総入れ歯になった方はほとんどいません。

ですが、断言します。もしも最初の失われた一本をインプラントにしていれば、この状況は全然違ったものになったと思います。

もしかしたら、その一本以外は失っていないかもしれないのです。

一本のインプラント治療が全ての歯を長持ちさせる

もしも、最初の奥歯を抜いた際にそれをインプラントにするという選択肢をしたとします。

その患者さまは、一本とは言えども高額な治療をするので、ほかの歯の大切さにそこで気が付き、他の歯も失うことが無いようにメンテナンスや入れたインプラントの健康維持のための定期健診にも積極的にご来院されるようになります。大抵の患者さまは一本のインプラントといえども、金額的には大きな負担を強いられますので、詳しく治療の内容や、歯の事に関心をお持ちになります。

そして初めて歯の健康を実感され、食べることにも自信を持ち、生涯歯を失わないための意識が高まります。

インプラント治療が持つ最大限のメリットについて言及いたしますと、ブリッジや入れ歯の治療法は噛み合わせの負担を他の残っている歯や歯茎の部分に依存します。ですが、インプラント治療や歯牙移植術などの治療法だけは独立した支えを新たに作るので他の歯の噛み合わせの負担を軽減するのです。つまり、ほかの歯の寿命を高めていく事に繋がります。

保険の治療が悪いとは言いません。どちらかというと私自身は保険の治療を頑張ってやる方だと思います。ですが、それ相応の価値を支払う事で、その大切さに気が付くことも多いという事はご理解いただけるのではないかと思います。

ですので、非常にコストパフォーマンスの高い価値のあるインプラント治療は、最初に自分の奥歯を失ってしまう可能性が出てきたときに訪れるのではないでしょうか。

これを読んである方はぜひ真剣に、初めて奥歯を一本失った際にブリッジにするのかインプラントにするのかは真剣に悩んでいただきたいと思います。

残っている歯がたくさんあって、インプラントにするかほかの治療にするか迷う方は多いとは思いますし、歯科医師としても高額なインプラントを自院の患者様に勧め過ぎると自院の評判が下がる可能性も高まります。ですが、残っているご自分の歯をより長持ちさせたい。おいしく物を食べ続けたいと思われる方は、歯の喪失が増えてしまう前に、インプラントでの治療をお勧めいたします。喪失した歯の数が増えれば増えるほど、それをインプラントで補うには治療の技術的にも治療期間的にも、そして金額的にもかなりの負担を強いられることになります。

高額なインプラント治療の対価とはつまり、他に残っている歯の負担を増やしその残された歯の寿命を短くするか、高額なインプラントをしてでもほかに残っている歯の負担を軽減させ長持ちさせるかどうか。という選択です。

前述したように、歯科治療の目的が「歯を失ったり咬めなくなる心配や不安が、ある程度解消されたうえで、他に残っている歯を長持ちさせたい。」と思われる方は、迷わずインプラント治療を選択した方が良いという事になります。

インプラントも受けたくても受けられない方がいる。

インプラントが如何に良い治療であると知っていても、実際問題としてやりたいけれど、出来ないと診断される方もおられます。

具体的には、重度の糖尿病の患者さまや、骨粗鬆症の治療を受けられている患者様の一部、放射線治療などを受けておられる患者様の一部、抗がん剤を服用しておられる方の一部や、骨の病気を持っておられる方などはインプラント手術を受けたくても受ける事が出来ない場合がございます。

過去にインプラントの手術を受けられてある方はこれらの事は存在するインプラントがリスク因子になる可能性もありますが、現存のインプラントが安定しているならば、メンテナンスで維持可能だと思われますのでインプラントが病気にならないようにご配慮ください。ただ、そのような持病などの加療中、治療開始予定の方は新たに手術を受けるのは困難になると思われます。

ご年齢とともに病気のリスクは増えていきますので、仮にインプラントに迷っている方は体が健康なうちに手術を受けた方が良いと思われます。

インプラントの口腔ケアの限界

インプラントの維持にはメンテナンスが必要なことは事実でして、基本的には歯科医院での専門的なケアと、ご自宅でのセルフケアによって維持されます。そして、ご自身の生まれ持って存在する歯よりもインプラントのメンテナンスは困難になります。もし仮にインプラントをご自分でケアするのが不十分であれば、長期の放置により、そのインプラントは歯周病に近い症状を起こして取り除かざるを得ない状況が出てくるかもしれません。

今後、超高齢化社会を迎えていくにあたり、ご自身の生活的な自由度が低下していく可能性もあります。その際に想像していただきたいことは、他人の介護により歯磨きさえも人任せになってしまう可能性です。

はっきり言いますが、他人がご自身で磨くことのできない患者様の歯磨きを一生懸命に毎日毎食後やって頂ける可能性はかなり低いです。

つまりは、そのような環境下ではインプラントの長期維持は困難になってくるだろうという予想です。

この問題は、インプラントにとってはネガティブな問題ですが、仮にそうなってしまってもそれまでの人生で楽しく食事が出来て、食べたいものを食べることが出来れば、もしもインプラントが病気になってしまい、取り除かざるを得ないとしても、十分におつりが出るのではないでしょうか?

インプラントによるアンチエイジング

年齢を重ねれば重ねるほど口腔内の機能は低下し、今までは食べれたものも食べれなくなります。このような問題に陥る可能性については「オーラルフレイル」といわれており、これも歯科界でも非常に懸念される社会的な問題が存在します。

そのような、オーラルフレイルになってしまった状況では、余りインプラントは必要なさそうですが、逆にインプラントなどで元気に物を食べれる方は、口腔内の機能が高い状態を維持できるので、オーラルフレイルになるのが遅くなります。つまりアンチエイジングの役割を果たすのです。

まとめ

インプラントの治療は、他の治療に代え難い価値がある。
歯の喪失が多い方のインプラント治療は高額になる。
ケースにもよりますが、残っている歯が多い方にとっては、インプラント治療のメリットとは残っている歯に噛み合わせの負担を依存しない治療法であるという事と、その残っている歯の寿命を延ばす可能性が有るという事。
奥歯の治療でインプラントかブリッジの選択をする際はインプラントを選択したほうが、他の歯の寿命を延ばせる可能性が高くなる。
インプラントの治療を選択することで、長く口腔内の機能維持が可能になり、アンチエイジングにつながる可能性が高くなる。

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