歯磨きだけでは歯周病は治せない

 

「歯周病に効く歯磨き粉」では歯周病は治らない

テレビのCMで、歯周病専用の歯磨き粉の宣伝をたまに見ますが、私ども歯科医師の立場からは消費者に向けて誤った情報を与えてしまっている危険性を感じます。というのも、歯磨き粉では歯周病は治せない。という一番大切な情報を伝えていないからです。

「え、本当?」と思われた方も多いと思いますが、歯磨き粉によって、歯周病の予防,

歯茎の腫れなどの症状の減少は出来ますが、具体的な治療は出来ないからです。

歯科医院で歯周病の治療をされた経験のある方ならご存知だと思いますが、歯科医院での歯周病治療の流れはこんな感じです。

①歯周病の検査をして病状を把握する。

②セルフケアの見直し、現在の問題点を説明し具体的なセルフケアの指導をする。

③歯石、歯垢の除去を行い、歯周病の原因を取り除く。

④改善状況を再検査して、更に残っている歯石や歯周病を悪化させている原因を治療などで取り除いていく。

⑤原因が取り除けない場合はセルフケアが可能なように環境を外科的に改善したりして、更に治療を実施する。治療後は、その方にあったセルフケアの方法を指導していく。

⑥歯周病が悪化しないように、その方に合わせた定期的な歯石除去、プロフェッショナルケア等のメンテナンスを、病状を踏まえた上で歯科医院で実施していく。

⑦ご家庭でのセルフケアによって歯周病が悪化しないように自己管理を継続する。

⑧定期的な歯科検診で歯周病が悪化していないかを再確認。⑥に戻る。

大まかに歯周病治療の流れを説明しましたが、最終的に歯周病が治るまでには⑥~⑧のループを歯科医院と患者さまとで二人三脚しなければ治ったとは言えません。また、厳密にいえば、歯周病に完治は無いので、特にひどい歯周病を悪化させずに安定させるまでには、生活習慣の改善も含めた長い道のりが必要になります。

そこに至るには、具体的な歯周病の原因である歯石除去や治療といった、本当に歯周病の症状を引き起こす原因を取り除く事が前提条件として存在します。

そして、歯周病を引き起こす大きな原因の一つの歯石は、歯ブラシやいかなる歯磨き粉を使用しても取り除くことは不可能なのです。

歯周病の患者様にとっても歯磨き粉の良し悪しは有るとは思われますが、上の治療の流れの中では⑦番目の、治療が一通り終わった患者様のセルフケアの部分まで行かないと歯石付着の予防にはあまり意味がない。という事を皆様には知って頂きたいと思います。

歯磨き粉は何を選べばよいか?

皆様は、ドラッグストアなどで歯磨き粉を選択する時迷う事はありませんか?

大抵の方は、歯磨き粉を買う際には、いつも買っている物何となく買っているのではないでしょうか?

ですが、その歯磨き粉の常連さんになる時に何かの目的別に、その歯磨き粉を選んだ理由があるのではないかと思います。

例えば、「歯周病に効く歯磨き粉」、「虫歯を予防する歯磨き粉」、「知覚過敏に効く歯磨き粉」、「子供用歯磨き粉」などなど。

ちなみに、そのいつも使っている歯磨き粉で最初に感じていたお悩みへの効果を感じていますか?

私どもの立場からも余りにも多くの種類の歯磨き粉が出ているので、これが良いという一点物を選ぶのは難しい問題です。

ですので、歯周病ならこれ、子供にはこれ、といったお勧めの歯磨き粉等を主に医院内で販売しております。

市販の歯磨き粉はもう、どれがいいというのは、はっきり言って患者さまの好みだと思います。と言いますのも歯科医という私の立場から言うと、(全国の歯科医師の先生はそう思っていない方も多いので、あくまでも、一歯科医の意見として)歯磨き粉で特に重要な成分なんてフッ素ぐらい、としか考えていないからです。フッ素以外の成分は、「必ず必要とまではいかない物」であるように思われます。

中には、歯磨き粉なんて必要無い。とお考えの先生もおられます。

フッ素については、歯そのものを虫歯から予防するので、配合されていれば、徐々に歯を強化していくことが可能です。

歯磨き粉の目的って何?

歯磨き粉の使用目的について、皆さんは考えてみた事ありますか?

歯磨き粉って無くてはならないものでしょうか?

歯磨き粉を使わないと、虫歯になるのでしょうか?

歯磨き粉を使わないと、歯周病になるのでしょうか?

実際には、歯磨き粉が無くても虫歯も、歯周病も、予防が可能です。歯磨き粉はあくまでも、補助的に歯を奇麗にしたりするためのものであって、使わないと病気になってしまうようなものでは無いのです。日常的に習慣として歯磨き粉を多くの方が使用しているので、多くの方にとってはそれが常識になってしまっているという事です。

では、歯磨き粉の目的って何でしょうか?

それは歯磨き粉に含まれる成分から、その歯磨き粉がどのような特徴があるか、また、成分の使用目的がわかります。

歯磨き粉に含まれる成分

研磨剤 クレンザーのように汚れを物理的に落とすのが目的。

例 炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等

発泡剤 界面活性剤。石鹸のように泡立てて汚れを落とす目的。

例 ラウリル硫酸ナトリウム等

保湿剤 歯磨き粉に湿度を与え、磨きやすくする。

例 グリセリン、ソルビトール等

結合剤 歯磨き粉の成分が安定するように配合されたもの。

例 アルギン酸ナトリウム等

薬効成分 その歯磨きに特化する薬効を与えたもの

例① モノフルオリン酸ナトリウム等(フッ素)

例② トラネキサム酸等(腫れの抑制)

例③ 硝酸カリウム等(知覚過敏抑制)

例④ ポリリン酸ナトリウム等(美白効果)

このように、歯磨き粉の違いとは主に薬効成分によってその歯磨き粉の特徴を示しているものが多いのです。目的に沿った歯磨き粉の選択も必要なのですが、あくまでも補助的に効果が働くものですので、過剰な効果を期待するのは良くないという事を付け加えておきます。

歯磨き粉は使った方がいいのか?

歯磨き粉も上手に付き合っていくことで歯の健康を高めてくれます。

歯磨き粉も人間の文明の中で生活を便利にするために作られた物ですから、私たちの生活の中で健康を維持するために工夫されて作られています。従って歯磨きの使用は歯科医師の立場からも推奨を致します。ただ、使い方は使う方の歯磨きの方法も考慮した上で使用されるのが良いかと思います。例えば歯磨きを長時間される方(一回の歯磨きが5分以上)やブラシ圧が高く歯にダメージを与えやすい磨き方をされるような方は、歯のすり減りも考慮した上で、低研磨、低発泡の歯磨きジェルなどを使用されるのが良いかと思いますし、音波歯ブラシや電動歯ブラシを日常的にご使用されてある方は専用の歯磨き粉を必ず使用下さい。また、どうしても色々な成分が気になるような方には、科学的な成分を出来るだけ少なくした無添加の歯磨き粉も有ります。ですので、ご自分に合った歯磨き粉の使用は口臭も含めて口腔内の衛生状態を健康的に維持するのには大部分の人にとって必要な物で有ると思います。

それから、歯周病を歯磨き粉によって回復させる事や、歯に付着してしまった歯石を取り除く事は不可能ですが、歯肉炎(歯茎の腫れや充血した炎症の状態)は歯磨き粉によって改善が期待できるものもあります。一度歯科医院を受診し、歯周病の原因である歯石を取り除き、一通りの歯周病の治療が一段落した後は、そのような歯肉炎を抑制する歯磨き粉の使用は歯周病の再発予防に期待できますので、あくまでも予防の範囲内であれば歯肉炎を抑制するような歯磨き粉は歯周病予防効果が高いと思います。

まとめ

歯周病は歯磨き粉だけで治る事は無い
歯磨き粉を購入する際は目的と薬効成分に沿ったものを選択した方が良い
長時間歯磨きをする方は低研磨、低発泡のものがおすすめ

 

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